人権教育
キリスト教の根本的な考え方として、わたしたち人間は神によって創造されたものであり、神に生命を与えられたわたしたちは、根本的に尊重されなければなりません。民族、文化、ジェンダー、宗教による差別や政治や経済の格差など、今もなお多くの課題を抱えているわたしたちの世界にあって、人が人として尊重されるよう、同志社大学における人権教育の務めを果たしています。
まえがき
キリスト教主義を建学の理念とする同志社大学は、一人ひとりを大切にし、そ れぞれの個性を尊重し、豊かに育てる教育を実践してきました。これは神に造ら れた「被創造物」である一つひとつのいのちを大切に育むという、聖書の人間理 解に基づきます。
しかし残念なことに、人間の社会はそのようには成り行かず、異質なものを排 除する歴史を繰り返し、今日なお、さまざまな差別や排除の問題が私たちの生活の中にあります。
人権の問題を学ぶ中で、自分とは異なるものを容易には受け容れられない人間 の現実を理解し、それが人としての弱さに由来するものであることについても、 考えていただければと思います。そのような人間の現実を、そして自らの現実 を、痛みをもって受け止めるところから、相互の理解への一歩が進められるのだ と、キリスト教では考えます。
一人ひとりが大切にされる社会の実現のために、学生の皆さんが社会の在り 方、制度、そして社会を構成する人間の問題を深く学ぶ経験を積んでいただくこ とを期待しております。
キリスト教文化センター所長
和田 喜彦
新島襄のことばから
男よりは克(よ)く女子の「人となり」を知り、女子よりも然(か)くして、互いに 「その人となり」を知り(『新島襄教育宗教論集』、289頁)
この言葉は、新島襄の「人種改良論」という演説の一節である。新島は、1880 年(明治13年)11月20日、熊本安已橋通伊藤八自宅で約70人の聴衆の前にこの演 説を行った。新島襄がここで言う「人種改良」とは、生物学的な人種ではなく、 人類の文明と社会、とりわけまだ封建的だった日本の文明と社会を指すと理解で きる。
新島は、日本文明の発展を阻害する最も大きな要因として男尊女卑の思想と習 慣を挙げている。教育は、そもそも文明の維持と発達に貢献すべきものだった。 しかし教育において男女を差別することは、むしろ社会を退歩させることだと新 島は指摘した。「且つ教育中最も人種退歩に関する大事件は婦女に教育を加えざ る事なり。男子は天と云い、婦人は地と云う。男子よりも一層卑しき者と見做 し、これを奴隷視して更に適宜の教育を与えず(中略)全く卑屈とならしむる等 人種退却の原因なり」(同書、274頁)。
教育をはじめ、結婚と家族の形成、宗教、法律など社会全般においての改良と 進歩のため、新島は女性と男性の意識の変化を促している。それが冒頭に引用し た言葉として、男女共に相手の「人となり」を知ることである。新島は、既得権 のある男性に女性が「人」であることを認めることを促した。またそれと同時に 卑下されていた女性にも、女性が男性と同様な「人」であることを認め、主張す るように背中を押している。この意識こそ、わたしたちの人権教育の原点に他な らない。
多くの人権問題は、人々が自分は「人」であることを意識しながら、特定の他 者に対しては、同等な人として意識しない現状から生じる。それに対して人権教 育とは、新島襄のこの言葉を用いて言い換えれば、どのような立場であっても人 が皆、自分と他者の「人となり」ことを共に知ることであろう。男性、女性、性 的少数者、在日外国人、在日日本人、「合理的な配慮」を必要とする人、必要と しない人、学生、職員、教員、等々。すべての同志社人は、他者と自分の「人と なり」を知り、またそうした意識が日本社会に深く根付くことを願い、励まなければならない。
キリスト教文化センター
李 元重
聖書のことばから
イエスに触れていただくために、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。しかし、イエスはこれを見て憤り、弟子たちに言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」そして、子供たちを抱き上げ、手を置いて祝福された。(マルコによる福音書一〇章一三―一六節)
当時、子どもという存在は「一人前でない小さな存在」であり「大人ではない未熟な存在」として扱われ、社会の周縁に追いやられていた。イエスの弟子たちも、子どもを連れてきた人々に対して、「先生が大事な話をしているのに、子どもを連れてくるとは!」といった風に「叱った」のであろう。しかしイエスはこれを見て憤り、子どもたちを自分のところに来させ、抱きかかえてから、手を置いて祝福したのであった。コミュニティーの外に追いやられていた子どもたちを、その中心の一番高いところに引き上げたのである。小さくされた存在を愛し、受け入れるイエスの行動は、「神の国」とはどのようなものかを示し、社会の「当たり前」となっている既成の価値観に厳しい問いかけをしたである。この姿の背後には、人が大人であれ子どもであれ、すべての人が神によって創造された尊い存在であるとの人間理解がある。旧約聖書の創造物語にはこう記されている。「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。」(創世記一章二七節)、「神はお造りになったすべてのものを御覧になった。見よ、それは極めて良かった。」(同一章三一節)。神はその被造物すべてを「極めて良かった」とし、すべての人はその神に「かたどって創造された」尊い存在としている。ここに聖書の示す「人間の尊厳性」の根本がある。
時は移り変わり、二十一世紀になった日本において、また世界においても、人と人との間に隔てや壁が存在し、自分と違う存在を排除し、自分より弱い存在、少ない存在を差別する人間のパターンは残念ながら変わらない。そのような現代社会に対して、またイエスを「Role
Model」とした新島襄によって設立された学び舎に連なる私たちに対して、このイエスの姿は、今何が問われているのだろうか。
キリスト教文化センター
森田 喜基
関連法令
法文 | 出典 |
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日本国憲法 | e-Gov法令検索 |
国籍法 | e-Gov法令検索 |
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律 | e-Gov法令検索 |
<出自による差別関連> | |
同和対策審議会答申 | 「同和対策審議会答申(『人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]』から抜粋)」(文部科学省)(2022月9日21日に利用) |
部落差別の解消の推進に関する法律 | e-Gov法令検索 |
全国水平社の「綱領」「宣言」(通称:水平社宣言) | 水平社博物館 |
アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律 | e-Gov法令検索 |
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(通称:ヘイトスピーチ解消法) | e-Gov法令検索 |
<性別による差別関連> | |
男女共同参画社会基本法 | e-Gov法令検索 |
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov法令検索 |
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 | e-Gov法令検索 |
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 | e-Gov法令検索 |
<その他、社会的弱者への差別関連> | |
児童虐待の防止等に関する法律 | e-Gov法令検索 |
ストーカー行為等の規制等に関する法律 | e-Gov法令検索 |
障害者基本法 | e-Gov法令検索 |
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 | e-Gov法令検索 |
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令 | e-Gov法令検索 |
障害者の雇用の促進等に関する法律 | e-Gov法令検索 |
発達障害者支援法 | e-Gov法令検索 |
ハンセン病問題の解決の促進に関する法律 | e-Gov法令検索 |
障害者の権利宣言 | 特定非営利活動法人 長崎人権研究所 |
<国際条約等-順序は上の分類に準じる> | |
世界人権宣言(仮訳文)1 | 「世界人権宣言(仮訳文)」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html)(2022年9月21日に利用) |
世界人権宣言(仮訳文)2 | 「人権・人道」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html)(2022年9月21日に利用) |
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約) | 「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_001.html)(2022年9月21日に利用) |
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)第五部 | 「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_006.html)(2022年9月21日に利用) |
市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約) | 「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_006.html)(2022年9月21日に利用) |
市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第六部 | 「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_007.html)(2022年9月21日に利用) |
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約 | 「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html)(2022年9月21日に利用) |
女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 | 「女子差別撤廃条約全文」(男女共同参画局) |
児童の権利に関する条約 | 「「児童の権利に関する条約」」(外務省)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html)(2022年9月21日に利用) |
難民の地位に関する1951年の条約 | UNHCR |
【用語解説】
人権に関わる用語については、以下のサイトに情報が掲載されていますので、参照してください。
(京都府の「京都人権ナビ」のホームページへ遷移します)
【人権に関する相談窓口】
人権に関わるご相談については、以下のサイトに情報が掲載されていますので、ご利用ください。
(法務省人権擁護局のホームページへ遷移します)
https://www.moj.go.jp/JINKEN/index_soudan.html